「かぜ」とは?
口、鼻、のど(咽頭、喉頭)までを上気道、その先の気管、気管支、肺を下気道と呼びますが、上気道から下気道までの間で起こる急性炎症症状のことを総称して「かぜ症候群」と呼びます。原因となる病原体はおよそ8~9割がウイルスで、残りが溶連菌や百日咳などの細菌、マイコプラズマなどの非定型病原体と言われています。かぜ症候群を引き起こすウイルスは200以上もあると言われており、分離同定することは困難です。
空気中を浮遊しているウイルスなどの病原体が気道内に吸い込まれ、気道粘膜に付着し体内に侵入することでかぜ症候群は発症します。体力が充実している場合は、自分の免疫能で病原体を排除し、「かぜ」自体を発症させないようにできていることも多いですが、少し弱っていたり、ウイルスの増殖能が強かったりすると炎症が起き、「かぜ」として発症します。発熱、鼻水、咳、くしゃみ、下痢、嘔吐などはウイルスを排除しようという体の防御反応の結果ともいえます。
病院ではかぜ症候群を診断しているわけではありません。かぜ以外の重大な病気でないかを鑑別し、大丈夫と思われる時に「かぜ」と診断しています。少し気になる所見がある時は採血をしたりレントゲン写真をとったりと検査を行うことがあります。
おなかのかぜ?
よく「おなかのかぜ」といいますが、嘔吐や下痢を来たす急性炎症症状を指して言っているものと思われます。かぜは定義上は上気道から下気道にかけての急性炎症症状を総称していますので、正しくは感染性胃腸炎となります。原因となる病原体が胃や腸から侵入し、下痢や嘔吐を来たすものをいいます。症状は比較的強く、反応が強い場合は一過性に高熱が出ることもありますが、ほとんどの場合強い症状は1日~1日半で落ち着き、3日位で回復します。下痢がひどい場合は脱水に注意が必要で、水分だけは少しずつ補充することが大切です。
かぜ薬の考え方
一番大切なことは、「薬でかぜは治らない」ということです。細菌性のものやマイコプラズマのような病原体は抗生物質が効きますので、薬で治すということがあてはまりますが、原因の8~9割を占めるウイルスに効く薬はありません(インフルエンザに関しては増殖を抑える薬があります)。基本的には自分の身体がウイルスに対する抗体を産生することにより炎症がおさまり症状が治っていきます。
では、なぜ病院では薬が処方されるのでしょうか?一番の目的は、つらい症状を和らげることで体力の消耗を抑え、身体がかぜを退治する手助けをするということにあります。前述のように色々みられる症状は抗病反応ともいえるので、必ずしも抑えることがよいとは言えませんが、かなりの高熱が続いてぐったりしていたり、咳がひどくて眠れないといった場合などは少し抑えてあげた方が体力的な部分でよい印象があります。免疫応答は体温が少し高い方が活性化されるため(そのために発熱しているともいえます)、ある程度耐えられるならば解熱剤は控えた方がよいとも言われています。
もっともやってはいけないことは、薬を飲んで症状を和らげ、頑張って仕事をしたり、しっかり家事をこなしたりすることです。かぜを治すには「養生」が一番大切です。早く治すためにはまず休める状況を作れるよう工夫しましょう。
かぜに対する漢方薬治療
当院ではかぜの時に漢方薬を積極的に使用しています。今から1800年ほど前に中国で傷寒論という医学書が書かれ、現在の漢方薬治療のバイブルとされていますが、かぜをひいてこのような症状になったらこの薬を使えといったことが一つの物語のように書かれています(間違った治療をして状態を悪くしてしまった場合の対処まで書いてある!)。つまり、漢方薬はかぜにこそ使うべき薬と言っても過言ではないかと思います。たとえば、寒気がして発熱し、つらい状態の時には、西洋薬では熱を下げる解熱剤が使われ、上がろうとしている体温を強制的に下げることで薬効を発揮しますが、漢方薬ではむしろ身体を中から温めて発汗を促し、汗をかくことで生理的な解熱を促すといった方法をとります。熱を下げ過ぎてしまうということがなくなりますので、抗病反応を邪魔することなく自然な治療を行えます。西洋薬にもピンポイントで作用を発揮でき、しっかり症状を抑えることができるというメリットもありますので、それぞれの良い点を考えながら薬の選択を行うことが上手な使い方と思います。漢方薬は授乳中でも内服できる薬が多く、妊娠中は積極的に内服することはお勧めできませんが、器官形成期(2週~15週位)でなければ、胎児への影響はあまりなく服用して頂ける薬もあります。
かぜをこじらせないために
まずできるだけ休めるよう努めましょう。子供の治りが早いのは、しっかり親に看病してもらい、家でゆっくり休めているからです。周囲への感染拡大予防の観点からも、家でゆっくり養生することが肝要です。
注意して頂きたい点は
- からだを冷やさないようにしましょう。
- 温かい消化のよいもので、しっかり栄養をとりましょう。特にビタミンは回復力アップによいです。
- 十分な睡眠を確保するようにしましょう。
- のどを乾燥させないようにしましょう(部屋の湿度を上げましょう)。
- 脱水にならないように水分はしっかりとりましょう。